2020年に読んだ本を振り返る

はじめに

2020年の12月には書いていたのだけど、完全に書いたのを忘れていた。

2020年はひと月に一冊は本に触れようという目標を立てていた。

備忘録として今年触れた作品について簡単な所感を並べていく。

こうしてみると、ひと月で読むには無理のある分量の本を買いすぎな気がする。

小説

ロリータ(ウラジーミル・ナボコフ、訳 若島正

ロリータという少女を取りつかれたように愛してしまった中年男性ハンバート・ハンバートの物語。

「恋愛小説であると同時に、ミステリでもありロード・ノヴェルであり、…」という書評のままの内容で、たとえ内容を紹介してみてくださいと言われたとしても答えに窮する感じだった。色んなネタを仕込んでいるのであろう、註釈の量がえげつなかった。

ロリータとの出会いを書いた第一部、いろいろあってロリータと旅をしに出る第二部との二つに大きく分かれるが、個人的に第二部が好きだった。車を走らせながらロリータと古びたラブホテルを点々としていく旅は、始終不穏な終わりしか感じられない。

驟雨・原色の街(吉行淳之介

吉行淳之介の短編集。表題作はいずれも娼婦が関わる作品。ロリータに続けて読んだので倫理観が終わってしまった。

倫理観がどうという話は実際はこの小説を語るのに無粋な問題で、人間の複雑な感情を性を通して異常なほどつぶさに描写しているという印象があった。

「原色の街」という題に似つかわしくない澱んだ色彩と、閉塞感が好きだった。

恐るべき子供たちジャン・コクトー、訳 東郷青児

第一次大戦後のパリが舞台。ポールとその姉エリザベート、友人のジェラール、アガートの4人が織りなす愛憎の物語。

ニンフの視座を持ち合わせていて、現世の人間とはどうあっても交差できない人間が好きで、その例に漏れずこの小説も好きだった。

子供時代にあるコントロールできない暴力性と人生に投げやりな態度がなんとなく好きで、「部屋」を作り出してそこで社会から抜けて退廃的に生きている子供たちの様子が最高だった。

花・死人に口なし 他7編(シュニッツラー、訳 番匠谷栄一・山本有三

死や罪、愛についての感情の機微が丁寧に書かれていて、分かる〜となることが多かった。バカの感想。特に「死人に口なし」の狼狽具合は自分も同じ状況であればそうなるであろうことは想像に難くない。文春砲にあった時の気持ちを味わえた。

「花」「死人に口なし」「わかれ」などで描写される、死人となった方がむしろ生きている人間に多弁に語り掛けてくるような感覚は分かる。

技術書

時系列解析 自己回帰型モデル・状態空間モデル・異常検知【Advanced Python 1】(島田 直希)

ARIMAなどの時系列解析を実装してみたかったので購入。個人的にこういう題だとフルスクラッチで実装するのかと期待してしまったが、ライブラリでの実装だった。マッチングがうまくいかなかった。

数多くの時系列解析の教科書で挫折した初心者の自分にとって、読むにはちょうど良い内容だった。この本のおかげで難易度高めの本もある程度読めるようになった。

時系列解析入門 [第2版]: 線形システムから非線形システムへ (SGCライブラリ 160)(宮野 尚哉, 後藤田 浩)

第1版を図書館で読んだことがあったが、新たに第2版でエントロピーの箇所などが加筆されたと聞いて購入。AR,MA,ARIMAなどについて丁寧に導出されていて非常によく理解できた。カオス理論の箇所はSF小説を読んでいるような気持ちになった。

エントロピーとカオス理論にここまで関連があったのかと驚いた。

個人的にサンプルエントロピーの話が面白かった。

ベイズ深層学習(須山敦志)

ベイズ推定とニューラルネットワークの基礎と、分布サンプリング法、ベイズニューラルネットワークと盛り沢山な内容で非常に勉強になる内容だった。

レビューで初心者でも分かりやすく丁寧と言われていたが、流石にそれは嘘だと思う難易度だった。少なくともベイズニューラルネットワークそれぞれの基礎が無いと理解は進まないと思う。

しかし丁寧であることは紛れもなく真実だった。後半部で出てくる式変形は基本的に全て本書の前半部の内容でカバーされているため、非常に分かりやすかった。いまいち理解が進まない箇所があるが、単に自分に数学的素養がないのが原因で本書の問題ではありません。

個人的に確率分布の式変形をしてカルバックライブラーダイバージェンスと期待値をあっちこっちする部分の数式がパズルのようで面白かった。

ハッカーの学校 IoTハッキングの教科書(黒林檎、村島 正浩)

ハードウェアハッキングの知識が全くなく、勉強したかったため購入した。

インターネットで公開されていたセキュリティキャンプの資料を参考に、たぶんこれじゃないかと推測しながら道具を揃えて、持っていたラズパイでSPIのところまではできた。ケチ臭い性分が発揮されている。念の為、本で得た知識は断じて悪用していませんし、今後決してすることはありません。

テスターなど高価で手が出なかった道具は揃えられなかったのでそこらへんはまた機会があればやりたい。

RFCの読み方―インターネット技術の公式仕様書(瓜生 聖, 秋月 昭彦)

下記記事を書くために図書館で借りた。

RFCに苦手意識があったのだけど、この本のおかげですらすら読めるようになった。

簡単な例から初めて少しずつ複雑なRFCにシフトしていく内容で無理なく知識を身に着けることができた。

2004年の本であるが内容は全く色褪せていないと感じた。

madomadox.hatenablog.com

Distributed Denial of Service Attacks: Real-world Detection and Mitigation (İlker Oezçelik, Richard Brooks)

自分の研究分野に近い内容だったので即ポチした。9千円近くとえらい値段が高かった。この手の値段とフォーマットの英書をよく見かけるけれどある程度こうしたアカデミックな本を発刊する機会があるのだろうか。

DDoSの歴史、ツールの種類、検知方法、緩和方法、実験環境の構築方法など有益な情報があって助かった。これを研究を始めたばかりで無駄サーベイ・開発に費やしてしまった頃の自分に読ませたい。

Deflectという技術があるのを知らなかった。調べてみたがいったん公開停止されているような気がする。

 

積んでしまった本

マシンリソースの不足、興味が持続できなかったという理由でほんの一部だけ読んだだけの本。

コンピュータシステムの理論と実装 ―モダンなコンピュータの作り方(Noam Nisan, Shimon Schocken 訳 斎藤 康毅)

低レイヤーに対する苦手意識を克服するべく購入したが途中で苦手意識が肥大化して興味が薄れてしまった。来年できるといいなぁ。

つくりながら学ぶ!PyTorchによる発展ディープラーニング(小川雄太郎)

最新のディープラーニング技術を勉強したくて購入。

マシンリソースが足りず学習ができなかったため1章だけ読んで放置してしまった。

 

プログラミング言語C++ 第4版(ビャーネ・ストラウストラップ、訳 柴田 望洋)

目を通してSTLなどがそういうことだったのか~とはなったが全部は読めなかった。この手の本はリファレンスとして必要に応じて読まないとモチベーションが続かない感がある。プログラミング言語の本は何か一冊持っておくべきということだったので購入したが、本当にその通りだなぁと感じた。言語の特徴などを分からずにぐちゃぐちゃに書いてしまうため。

Effective PythonPythonプログラムを改良する90項目~ (Brett Slatkin、訳 石本 敦夫・黒川 利明)

2章まで読んだけれど、上と同じように感じて持続できなかった。とはいえ目が鱗の情報が多くて買って良かった。

コンピュータネットワーク 第5版(アンドリュー・S・タネンバウム,デイビッド・J・ウエザロール,訳 水野忠則・相田仁・東野輝夫・太田賢・西垣正勝・渡辺尚)

興味のあった輻輳制御アルゴリズムQoSだけ読んで放置してしまった。他の部分も必要に応じて読んだけれども、業務などに利用するには少し古かったりする箇所があるなぁという印象。